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代償性発汗の病因と

当院の片側手術について




これまで、代償性発汗の治療として多くのリバーサル手術を行ってきました。

昨年より、リバーサル手術を受ける人に、

手術をうける日程を公表していただき、

術後には体験談を公表するという方法で

当院で行うリバーサル手術の成績を効果してきました。(治療成績の公開)

一例の例外もなくすべての患者さまにおいて

代償性発汗の明確な改善が得られております。



このリバーサル手術の経緯から

病的な代償性発汗とは何かという疑問についても

当院では以下に示す見解に達しています。


「病的といえる代償性発汗は交感神経節の不適切な切除によって生じるのであって、

体の水分バランスの調整のために止まった部分(手や顔・脇など)の

汗を代償して出るものではない。」

したがって、現在病的な代償性発汗に苦しんでいる方にも

改善・解決することも可能です。

08/01/27に行った患者様の代償性発汗は

当院でも高度の重症患者様でありましたが、

リバーサル手術後明らかに改善しております。





次に代償性発汗の成因については

複数の要素が関係していると考えています。


1. 交感神経の切除レベルの不適切


 (初回両側のT3の切除を行っていて代償性発汗が出ない患者様に

 両側の再発が見られたため両側のT4の切除を行った

 途端に激しい代償性発汗となる

 こともあるので、切除はどの部分が適切なのかは個人差・個体差があります。

 決して一律にT3がよいとかT4がよいとかではありません。

代償性発汗はT2・T3・T4・T5のどこを処置しても発生する可能性があります。

T3・T4で病的な代償性発汗が出た場合には、

むしろT2は安全であったといえる場合もあります。

一般にT2を行った場合には、

著しい代償性発汗は生じる確率が30%程度に達するという実際から

T2の処置は初回手術では控えるほうが良いされるようになりました(下方遮断の普及)。

一方T2を行ったとしても代償性発汗が問題とならない人も

70%存在します。

T2が完全に否定されたわけではありません。

T2を行ってわずか程度の代償性発汗発汗の見られた患者様の中に

1・2年経過した後再発してくる患者様がいます。

このような再生再発の患者様に対し

再手術に関して下方遮断としてT2を行わずに

T3を行ったところ

T2と比較にならないほど著しい代償性発汗に

なった患者様がいます。

この患者さまの場合にはT2は安全でT3がよくありませんでした。

このようにETSではどの交感神経レベルで処置を

を行えば安全とかいう定説はありません。

個人個人で異っています。

そのため当院では術前の状態と術中電気刺激試験

などさまざまな取り組みを行ってきました。

術中電気刺激試験のどのような結果が術後の

病的な代償性発汗の予測因子になりうるのか

あるいは、何が多汗症の治療効果を予測するのか

などデータ解析を続けてきております。

この結果に基づいて、通常のETSのみならず

代償性発汗の治療も行えるようにまで至りました。

小生の解析に大きな誤りがあれば代償生発汗の

成功例は得られていなかったはずですが

これまで行った代償性発汗の治療はすべてに成果を

発揮しております。(公開手術で10例以上、全体で30例以上)

上述の取り組みにより代償性発汗に対する対策も

以前よりは大きく進みましたが

それでも、術前に代償性発汗が最小になるとか

許容範囲内とか言い切れないのが実情です。

以下に理由を示します。

1. 交感神経節が血管や脂肪などに覆われていて重要な

  部分の電気刺激試験が行えない患者がいること。

2. 肺の癒着などがあり、癒着剥離操作に用いた電気メス

  の通電が、交感神経を麻痺させて電気刺激試験の反応性

  取れなくなる事例があること。

3. データ解析の中で解析の予測と術後の代償性発汗の状態

 が一致しない患者が0.3%存在すること。

4. 正常範囲といえる発汗状態にもかかわらず、

 代償性発汗の訴えの強い患者様が存在すること。

上記の理由で、当院では、ETSを受ける際には

代償性発汗に対して慎重な立場をとるように術前の説明を行っています。

そして、患者様自身に代償性発汗の程度を片側手術で体験し、

両側手術の約半分の代償性発汗の状態での自己評価を

行っていただくことを推奨しております。

このため初回手術後6ヶ月間は片側での術後評価期間としております。

この期間に代償性発汗の部位・範囲・程度を見極め反対側に手術に役立てる

ことができます。

また片側手術で最初は片側の手・脇の汗が止まりますが、

術後3ヶ月程度経過すると反対側の手術をしていないほうの

手・脇の汗も著しく減少してくることがあります。

約20%にこのような対側発汗抑制効果があるため

反対側の手術が不要となります。

このような患者様では片側手術で両側の多汗症の改善ができ、

代償性発汗の程度も半分で済ませることができます。



当院では片側で電気刺激試験などから可及的に代償性発汗を少なく

手術を行いますが、それでも術後に代償性発汗が出ることがあります

その場合には代償性発汗の部位・範囲・程度を見極めて

反対側の手術では代償性発汗を呼び出したと思われるレベルの手術は

控えるなどの対応を行っています。

両側を同時に手術を行うと術後経過をみて観察することができなくなります。

1990年代後半の小生が神戸大学勤務時代に試験的にT4切除を行った事がありますが

代償性発汗も決して見過ごされるものではなく、

さらに効果も乏しいため、すみやかに終了としました。

以来、現在も行っていません。




2. 初回手術と二回目手術の間隔


 病的な代償性発汗は初回手術と二回目手術の間隔が短い場合に

 明らかに多くなっております。

 交感神経は体の発汗という基本的な設定にかかわる

神経システムですから、一回の手術では体に大きな負担がかからない

範囲で行うことが望ましい。

したがって、初回の手術で病的な代償性発汗が生じた場合には、

二回目の手術を期間をあけて遅らせるなどの対応をとる

必要があります。

手術の間隔をあけて行うことにより

当院の代償性発汗の発現頻度・重症度は、

明らかに減少しました。

他にもさまざまな原因が関係していますが、今回は割愛します。




当院の取り組み


当院では多くのETSの手術を担当しました。

多汗症の病態の解明に資すると考え、

術中に電気刺激試験や術後の代償性発汗の実態調査など

可能な限りの研究に取り組んでまいりました。

ETSでの遮断範囲と代償性発汗の身体所見から

その治療については有意義な方法を

提案できるようになりました。

実際においても手術により治せるようになりました。


一方、これから手術を受ける患者様には

 以下の2つの理由により

代償性発汗に対し慎重な考えを持っていただきたいと思っています。

1.  ETS術後の病的な代償性発汗といえないレベルの

   わずかな汗が増えたことによっても

   精神的に傷つく患者様が存在すること。


2. 代償性発汗は、手術前・手術中に予測が困難であり、

  術後でなければ十分な代償性発汗の評価ができない。


ETSを受ける患者様は、通常手術に大きな期待をもって手術に望みます。

よいことだけを期待して手術を受けている人が多いと思います。

それで良い患者様も多くありますが、

術後に病的な代償性発汗でその後の生活に困難を

強いられている方もいます。

当院において、手術を受けていただく場合には

代償性発汗の副作用を十分意識し

いきなり両側の手術を受けるのではなく

片側で経過を観察していただいています。

それぞれ自分自身にどのような代償性発汗が

出てくるのかを評価するという

慎重さを持っていただきたいと思っています。


代償性発汗は片側でも発生しますが、両側に比べておおむね半分です。

このことは、当院で代償性発汗の治療として

行っているリバーサル手術の経緯からも容易にわかります。

リバーサル手術も片側づつ行いますが、片側受けると

もとの代償性発汗の重症度が半分くらいにまで改善します。

両側を受けた時点でもともとの肌のように自然な発汗レベル

に復します。

まったく汗が出なくなるのではなく

運動するときにはETS以前の自然な発汗があります。

したがって、これからETS を受けようとする人も片側づつ受けることによって

代償性発汗の現れる部位と範囲・発汗の程度を確かめることにより

二回目の手術で切除のレベルの変更などの代償性発汗に

有効な対策をとることができます。

当院では、本邦でも多くのETS の経験があり

さらに代償性発汗に対するリバーサル手術での成果を

あげることに成功しました。

以前より技術力は格段に向上しております。

しかしながら、手術前に代償性発汗を最小にする方法はいまだに見出しておりません。

両側同時のETSについては、当院でも十分な医療となる自信がありません。



これからETSを受ける患者さまへ

ETSでは代償性発汗という良くない作用があり、

手術の仕方によっては出るときは激しい場合があります。

当院では代償性発汗の治療を行なうことが出来るようになった現段階の技術力であっても

初回治療で全くに代償性発汗がでない治療は出来ておりません。

この点に関しては代償性発汗があった場合に、

患者様としてどの程度から不満足になるかが術前に想定できないためです。

下方遮断T4以下の遮断で代償性発汗が無視できるとする医師もいますが、

効果も乏しい上に

代償性発汗がでるときには出ます。

T4でうければ副作用はないとは安直に考えてはいけません。

クリップ術などのようにクリップをはずせば、元に戻るというものではありません。


手術を受けるときには代償性発汗もあり得るということを考えに入れて

それでも多汗症の治療の有用性・必要性があるかどうかの検討をしてください。

多汗症の治療を受ける際には、代償性発汗に対する治療の実績をしらべることも肝要です。






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