多汗症(手の汗)治療は山本クリニック 本文へジャンプ

 
このページでは当院の代償性発汗の取り組みを記述します

代償性発汗は多汗症手術後に手の汗は治まったものの胸・背中・腰・臀部・大腿等に多量の汗が出現し日常生活に支障をきたす副作用です。
 胸・背中・腰・臀部・大腿等に皮膚に存在する汗腺に交感神経から発汗シグナルが多量に送られてくるため、多量の発汗となるわけですが、なぜそのような状態となるのでしょうか?

これには、発汗の仕組み・手術の種類・手術する部位が関係しています。


発汗の仕組みとして基礎的な理解が必要です。

手の掌の発汗は、まず発汗中枢(延髄内)からのシグナルが発信源となり、交感神経節前繊維にシグナルが伝達されます。節前繊維は、延髄から脊髄内を通ったのち、脊髄を出て胸部交感神経節にまで伸びています。次いで交感神経節内で交感神経節後繊維にシグナルを引き継ぎます。交感神経節後繊維は交感神経幹を頭側に向かって走行しており、第一胸部交感神経節(星状神経節)を経由し、腕神経叢・上腕神経・正中神経を通った後、手の掌の汗腺に作用し、手の掌の発汗を生じさせます。

交感神経節内では、節前繊維の終末端から、伝達物質(アドレナリン)が放出され、節後繊維のレセプターに吸収されることで節後繊維にシグナルが伝わります、この節後繊維は、シグナルを電気信号に変え皮膚の汗腺に到達するとアセチルコリン呼ばれる神経伝達物質を放出し、汗腺にシグナルを伝えます。


手の掌の多汗症の患者様は、中枢あるいは交感神経節前繊維の活動が高まり、活発な神経活動が生じています。そのため手の掌の多汗症となっています。脇・顔・頭部の多汗症も、神経の走行の部位は異なりますが、伝達様式は同様です。


 即ち、発汗現象には発汗中枢から、交感神経節前繊維・交感神経節後繊維という2本の交感神経でシグナルがやってくるというシステムがあります


手術の種類について説明します。

一般に多汗症手術として行われている手術は
大別すると2種類があります。

1. 神経幹(神経節と神経節を繋ぐ部分)の切断(遮断)術

2. 神経節の切除術

詳しく用語を説明すると1は胸部交感神経切断術という手技であり、交感神経の本幹を切離あるいはクリップで圧挫し、交感神経の節前繊維あるいは節後繊維を無機能化させ、中枢からの交感神経のシグナルが手の掌の汗腺に届かなくさせます。その結果、多汗症が治ります。遮断術とよばれる、電気メスなどのエネルギーデバイスを用いて熱を加えて神経を無機能化(熱遮断)する手法も含まれます。内容的に2の切除術との相違点というのは交感神経節を除去するのではなく交感神経幹という神経の通路に対する手法です。

の用語の正式名称は胸部交感神経節切除術です。
これは交感神経節の切除を行ないますので、交感神経の節前繊維及び節後繊維をそのシナプスという接合部を含めて切除し取り去るという手技です。
健康保険では2の切除術が指定(K196-2)されています。


1の切断術の図


2の切除術の図





次に手術する部位について説明します。
図を使って説明した方が理解が進みます。


解説図1では赤色の交感神経繊維が手の掌多汗症を
引き起こしている神経線維として表現しています。


節前繊維からシナプスを介して節後繊維(太い赤色の点線)に接続しています。この図では第4胸部交感神経節
でシナプスがあるという図ですが、第3あるいは第2または第1(星状神経節)胸部交感神経節内という事もあります。個体差があります。



このような状況で第4肋骨上の交感神経の通路(交感神経幹)を切断したとします。この解説図では、「切断」と赤字で示している場所を、メスあるいはエネルギーデバイス(電気メスや超音波凝固メス)またはクリップをかけるなどして神経の切り離しを行った様子を示しています。



外傷を与えられた神経線維は、Waller変性と呼ばれる変化を起こします。Waller変性とは、傷ついた神経線維の細胞膜に抗原性が現れて、母体の白血球やリンパ球に貪食される現象です。すなわち、神経が消失してしまいます。解説図2では手術を受けた線形繊維を灰色に示しています。手の掌に向かう節後繊維(太い赤色点線)胸や背中に向かう節前繊維(緑の細い点線)に注目してください。



解説図3は、切断術をうけWaller変性が起きた様子を示しています。手の掌の節前繊維(赤色点線)は手術を受けていないので、それまでと同様に活発にシグナルを伝達してきます。そのため節前繊維のシナプス内にアドレナリンを放出します。しかし、手の掌の節後繊維はWaller変性により消失しており、それを受け取り吸収していた節後繊維のレセプターがありません。一方、胸・背中に向かう節前繊維Waller変性により消失し、アドレナリンを放出することはありません。それを受け取り吸収していた節後繊維のレセプターは手術を受けていないので、温存された状態となっています。



解説図4は、手の掌の節前繊維は活発にシグナルを伝達し、その終末端のシナプス内にアドレナリンを放出します。胸・背中に向かう節後繊維のレセプターが、手の掌の節前繊維から放出されるアドレナリンに反応して活発に動作するようになります。一般には誤接続(インコレクトリコネクション)と言う状態です。その結果、胸・背中の汗が多量に出るようになります。これが代償性発汗のメカニズムです。

代償性発汗の原因がある部位は胸部の交感神経節内です。代償性発汗の発生の原因部位となる交感神経節をしない切断術は、代償性発汗誘導する手術であり、ただ検便に手の汗を減少させるだけの手技であり副作用には大きな問題を残すことになります。

次の様子を見れば明快に現象が理解できます。
Fig 1

Fig 2


片側手術の患者様に出現している代償性発汗のタイミングは必ず、未治療側の多汗症の発汗と同期しています。そもそもは両手同時に多汗が現れていたわけですが、片側手術したのちは手の汗は治まります。手術をしていない手(左手)の多汗が出ているタイミングで代償性発汗が手術側(右側)の胸・背中に多量に出ている様子を示しています。体の内部では、手術治療をした側(右側)の多汗を引き起こしている神経の活動が、続いていることが分かります。両側多汗症の手術を受け代償性発汗になってしまった患者様は足の裏の多汗の出現と代償性発汗が同期していることが実感できます。


即ち代償性発汗とは、交感神経節をのこした切断術により生じたものであり、交感神経節切除を適切に行わなかった結果という事が出来ます。交感神経節切除術においても切除する交感神経節の部位が適切でなく、結果的に活発に活動する交感神経の節前繊維を手術していない場合には生じる可能性は残ります。しかしながら、切断術のような極端な状態にはならないことがほとんどです。そしてまず最初に片側を受けることに代償性発汗の出る部位と程度を観察する事が予防として重要な対策です。代償性発汗が出なければ良いのですが、第2肋骨上での切断術約25%と第3肋骨で17%、第4肋骨で13%の患者様に生じるリスクがあります。

既に切断術(クリップ術・遮断術)を受け厳しい代償性発汗に悩んでいる患者様の中には裁判に訴えている方もいます。健康保険では、胸腔鏡下胸部交感神経節切除術(K196-2)となっており、切断術は保険治療とは言えないものです。その切断術を受け、とんでもない代償性発汗になってしまったのですから裁判もありうる話です。これから多汗症手術を受ける患者様には是非、当院の多汗症教室で詳しい説明を受けてください。多くの場合は、代償性発汗の状態を写真等で説明をされていませんので、具体的な説明を受けなかった患者様が多くいます。また、担当医も代償性発汗のメカニズムを理解しないまま、切断術を行っていることがほとんどです。健康保険では切除術を行うべきところそれを行っていないことで、多くの代償性発汗の患者様が発生したと言えます。

このメカニズムの解明により導かれることは、代償性発汗になった患者様にも再度の交感神経節切除により完治の可能性があるという事です。
代償性発汗を引き起こしている交感神経節の検出(部位の特定)はLSFG(後述)の技術で可能となっています。

Fig 3


この図の患者様は、多汗症手術を右側に受けました。そうすると右の背中(写真a)・右胸(写真e)に代償性発汗が出ました。サーモグラフで皮膚温度を見ると代償性発汗の部位に一致して皮膚温度の低下(写真b)(写真f)がみられます。これをLSFG 技術を用いて、代償性発汗の原因となっている交感神経節を特定し、その交感神経節の切除術を行うと、代償性発汗(写真c)(写真g)は消失しました。
サーモグラフでも代償性発汗が出ていた皮膚の低温領域(写真d)(写真h)は消失しまし。
代償性発汗の治療を多く担当しましたが、多くの患者様は2ないし3か所の交感神経節が原因しています。これらの交感神経節の切除術が再手術で実施できれば明快にかいぜんします。しかし、最初の多汗症の手術で胸膜肺癒着などが生じた場合には、手術が困難となり、ばあいによっては試験開胸となる場合もあります。一方、初回手術では癒着の患者様はほとんどいませんので、代償性発汗の対策としてLSFG技術が実施できます。最初の手術をぜひ当院で検討ください。

Fig 4


この患者様は。両側手術をうけています。
背中・胸・大腿に多量の代償性発汗がありますが、LSFGを用いた右側片側の交感神経切除を再度行う事で両側の背中・胸・大腿の代償性発汗の軽減・消失が得られました。写真は無負荷のスクワットを40回を1セットとして4セット終了後の発汗状態です。
再手術は右に行いました。右半身は勿論ですが対側の左の代償性発汗の改善があり。写真のごとく
大腿後面にまで著明な改善が得られております。

代償性発汗に対する対策の技術のある当院で多汗症治療の説明をお聞きください。

代償性発汗をテレビ・ネットで「謎の現象」の如く表現している人たちもいますが、謎でもなんでもありません。活動の高まった交感神経の手術がなされていない状態が代償性発汗です。

多汗症教室ではさらに詳しいご説明をさせていただいております。



代償性発汗(CS)はETS術後の副作用です。手術を担当した主治医が基本的にフォローするべきものです。

現在本邦では、当クリニック以外で、代償性発汗に取り組んでいる施設は見当たりませんが、それでも他施設で手術を受けた患者様は、手術を受けた施設においてご相談ください。 
当クリニックでは、他施設のCSについては、
以下の条件で対応の可否を検討します。

過去3年以内にETSをうけた。
BMIは20以下
身長は150から175CM
前医の手術記録の開示を受け書面でT4遮断あるいはT4クリップ術など1レベルの処置であることが示せること。
費用は片側80万円。




当院はこれまでETS を1万3千件以上担当し代償性発汗の手術治療を
百件以上行ってきました。
代償性発汗はどの程度の量から病的と診断するかで発現頻度は変化します。
そのため報告する評価者により代償性発汗の数字は異なっています。


結論としては、代償性発汗は手術治療が必要ですが改善できます。

初回のETSにおいて、最も容易に対策が可能です。

ETSを考えている患者様で代償性発汗が心配な患者様は多汗症教室において詳しく説明しております。

院における2012年以降
病的と言える代償性発汗の発生頻度は
3/1000です。
従来の成績に比べて格段に減少しました。

当院では病的な代償性発汗を抑えるいくつかの技術を手術に用いています。体表面の血液循環量をレーザードップラー法を用いて行う
skin vasucularityを手術に役立てます。
この技術は次の動画のように各交感神経が皮膚表面の血流を制御・管理している様子が観察できます。
video へのリンク

T4切除に続き右顔半分の血流が減少しています。
よく見ると右半分の鼻翼は血流が減少していません。
T3切除ではT4と同じように右顔半分の血液循環量が少なくなります。
さらにT4では変化がなかった右鼻翼にも変化が及びます。
この人では鼻翼はT3からの制御を受けていることが分かります。
このような皮膚血液循環量は交感神経によって支配されており、体中に各交感神経が制御しています。血液循環量と発汗の支配はおおむね重複しているため、どの交感神経がどの皮膚に関係しているかを手術中に観察して手術しなければ、多汗症手術はうまくいきません。このskin vasucularityにも個人差があり、手術を難しくしています。
個人差をしっかり把握したうえで手術を行うことが求められるのです。

したがって。T4で代償性発汗が抑えられるというものでもありません。要するにT3とほぼ同率です。T2よりは少ないといえますが、手の多汗などの改善が乏しく、おすすめの治療とはなりません。

T4 切除で代償性発汗が抑えられるという事はありません。
もしそうであれば、私を含め多くの医師がT4切除をしているでしょう。

T4は効果が乏しく、残念な結果になることが多くあります。代償性発汗もでると大変です。T2は効果は強くのですが、代償性発汗の頻度がT3・4より多いのが残念です。
手の汗を止める効果を強く望むと代償性発汗も強くなるという医師がいます。このような医師が、T4切除を進めることが多いようです。
代償性発汗と手の汗の減少効果と連動しているように説明されると納得しそうになりますが、そうではありません。独立事象と考えなければなりません。
T4切除を受けた後手の汗は半分も止まっていないのに、強い代償性発汗になった患者様が私のところに相談してきます。このような患者様は、前医に失望しているので手術を受けたところに行かないのが一般的のようです。手の汗が止まることと代償性発汗が現れることは別問題です。ETSでどの交感神経を手術するかで誘導される別の問題というべきです。

代償性発汗は以下の実証例に表れているように、手の汗が少なくなることと代償性発汗の状態は関係ありません。


代償性発汗に陥ったらもう最後と考えている医師や患者様も一部にはいるのですがそうでもありません。
(すでに生じた代償性発汗が改善しないと認識している医師は専門医としての技術・経験に不足しています。)

ETS後に生じる代償性発汗の程度はさまざまですが、
病的に多量の場合には治療を行っています。

たくさんのETSおよび代償性発汗の治療経験から
当院は独力で病態の解明を行ってきました。

代償性発汗は下の写真に見られる如く、発汗量の多い
皮膚部分の汗腺に多量の発汗信号が届けられた結果です。

(多量の発汗を促す神経伝達はやはり交感神経です。)
代償性発汗の原因を作っている交感神経の所在が
判明すればその遮断で代償性発汗も消失します。

この論理と実証は、2015年チリでの国際交感神経外科手術シンポジウムで発表しました。他2か国の演者も同様の発表がありました。
徐々に各国で普及していく期待が持てます。
追記:チリにおいてもそうですが、これまでの国際学会の発表では当院が最多手術例数であり、代償性発汗の治療件数も最大数をキープしています。


代償性発汗とは背中の広範囲に多量の汗が
出現し、日常生活に不便・不快をきたします。

このような体の多汗も改善が可能です。

(他施設でETSを受けた方は、手術を受けた施設において対応していただくようにお願いします。)

Fig 5
(患者様の同意を得て、写真の掲載をしております。)


Fig 6



体表温度を観察するサーモグラヒィで見ると
発汗部分に一致して皮膚温の低下を伴っています。


Fig 7


Fig 8



このように激しい代償性発汗が、ETSの術後に現れる確率は、T4あるいはT3単独切除で3〜5%、T3とT4の二か所切除で6%程度あります。
(これでもT2の7-8%より少ない。)

 この確率は、すべての人に一律の治療を行った場合ですが、どの部分の交感神経の手術がこのような代償性発汗を引き起こす原因かという事が分かれば、代償性発汗の治療と予防が可能です。

当院では、手術中の交感神経への電気刺激試験により、各交感神経節が制御する皮膚領域の確認をすることで、上記患者の代償性発汗に関与する交感神経の解剖学的所在を求めることに成功しております。

当院独自の技術ですが、上記患者様の代償性発汗の治療を行い右半身の代償性発汗の改善を得ています。

Fig 9



Fig 10



Fig 11


Fig 12





右の背部・胸部・腹部・腰の代償性発汗は改善しております。サーモグラヒィにおいても、右側の皮膚温度が正常皮膚温となっています。

当院では代償性発汗を治す技術として、術中交感神経の電気刺激試験に取り組んで来ました。

この技術があるかないかで代償性発汗の発現頻度も変わりますし、代償性発汗が出ても治せるかどうかに関わってきます。

代償性発汗を訴える患者様の多くは、上記患者様のような厳しい程度ではないことが多いのです。本人は苦痛・不快と思っていても、第三者からは病的と言う程度ではないことが多くあります。
 それ故、ETSでどの交感神経を手術すると術後どの部分の汗が増えてくるのかが術中に判断できるこの技術が必要となります。

 この技術を初回のETSにも用いて、厳しい代償性発汗が現れないETSに努めております。

 患者様は背中・胸の広範囲の代償性発汗を特に不快と訴えますので、この部位の発汗の程度ならびに範囲を極力少なくするように、手術の交感神経の部位の選択を行っております。


 代償性発汗はETSの副作用として知られていますが、治療者の技術の差でもあります。

 代償性発汗にどのような取組を行ってきたかが治療者側の評価基準です。

これから、ETSを受けようとする患者様は治療施設選びに代償性発汗のフォローアップも検討項目に加えていただきたいと存じます。

過去に当院でETSを受け、代償性発汗でお困りの方には連絡を取っていただきたく思っております。

上記の患者様の左側の手術後(約1年後)の写真を追加します。術前と同じ運動を行っています。両側の代償性発汗が改善していることがわかります。

Fig 13



Fig 14



Fig 15


Fig 16













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2006年10月11日 21:37:11 掲載開始
2021年8月12日 更新